俳句の庭/第50回 父のこと 藤本美和子

藤本美和子
平成26年より「泉」継承主宰。公益社団法人俳人協会理事。
句集に『跣足』『天空』『冬泉』『現代俳句文庫藤本美和子句集』、著書に『綾部仁喜の百句』など。第23回俳人協会新人賞受賞。第9回星野立子賞受賞。

  亡骸の父の頤梅雨満月  美和子
 父が亡くなったのは二〇〇七年六月二十九日。あれから十六年が経つ。自作を残しているせいかどうか、父が亡くなった頃のことはなにかと鮮明に覚えている。
 この年の四月下旬、黄疸症状が出たときはすでに胆管癌の末期で余命二か月であることを知らされたこと。
 当時、わが家は初孫が誕生したこともあって何かと落ち着かぬ日々を過ごしていた最中だった。
 離れて住んでいる私も何度か故郷の父の許に通った。とはいえ、大した看病もせぬまま父の顔を見ては帰る、そんな日々だった。父は父で好きな煙草も止めず、日常生活を送ることができた。何より死の三日前まで家族と過ごすことができたのは幸いであったと思う。最期の三日間はさすがに痛みが激しく入院せざるを得なかったが、自身の病状等を記す日記を死の直前までつけ続けた。
「雪月花」といえば季語のなかでも竪題として磨き抜かれてきた言葉、好きな季語も多い。「雪」「花」は季節が限られているが、「月」は季節を問わず仰ぎみることができる。秋はもちろんだが「春の月」のおおらかさも、冴え冴えとした「寒の月」もいい。ただ、梅雨時に満月を見られる日は限られる。
 そのせいか、この季節、満月が見られると父と巡り会えた思いがする。だから「梅雨満月」と出会える年は私にとってかなり幸せな年である。