俳句の庭/第20回 雉子の「ほろろ」 角谷昌子         

角谷昌子
東京生まれ。昭和63年、鍵和田秞子に師事。句集『奔流』『源流』『地下水脈』、評論『山口誓子の100句を読む』『俳句の水脈を求めて 平成に逝った俳人たち』(俳人協会評論賞受賞)、共著『英語四行連詩』『花の歳時記』ほか。現在、「磁石」「井の頭」同人。英語俳句講座講師。俳人協会理事、国際俳句交流協会理事、日本現代詩歌文学館評議員、日本文藝家協会会員。朝日新聞「俳句時評」連載中。

雉子の画像 角谷昌子.JPG 雉子は国鳥にもかかわらず狩猟の対象で、昭和末年ころには年間40万羽ほどが撃たれていたそうだ。

食用でもあり、細見綾子の句集『雉子』には次の句が収められている。

  生くること何もて満たす雉子食ひつつ 綾子

  この句集が刊行された昭和31年は、まだ戦後の混乱が尾を曳いていた。食材も豊富ではなく、必死に生きる毎日、滋養ある雉子の肉を食べることは、未来を信じる意欲にもつながったのだろう。俳壇では、夫の沢木欣一はじめ金子兜太らが社会性俳句を牽引していた時代だった。

 十年前に山梨に山荘を持ってから、雉子は朝夕見かける親しい存在になった。幸い禁猟区なので、田畑や草地を歩む雉子ものんびりして見える。人間の姿を認めても、すぐには飛び去らない。様子をうかがいながら首を上げ、危害が及ばないと思えば、また餌をついばむ。雄の縄張り意識が強く、ことに繁殖期になると激しく「ほろろ」を打って鋭く鳴く。

  雉啼くや胸ふかきより息一筋  橋本多佳子

  雉子の声沁みて山脈あはれなり  飯田龍太

 「ケンケン」の声は辺りに響き、思わず息を呑む。さらに雄同士が蹴り合う姿は迫力がある。睨み合ったと思うと羽打ちながら蹴爪を立てて飛び掛かる。気性は荒いが、雌が食べている間、雄は周囲を睥睨して見張りを怠らない。雄が数羽の雌を連れて歩いていたので、「モテモテケンチャン」と名付けた雉子があった。また数年前には8羽の雌雄混合の群れに遭遇した。雉子の生態はまだまだ謎だらけだ。