俳句の庭/第12回 萩の花  伊東 肇

伊東 肇
昭和18年東京生れ。昭和50年「若葉」入会。清崎敏郎に師事。艸魚賞(新人賞)、若葉賞(結社賞)受賞。平成3年慶大俳句丘の会(OB句会)に入会。平成11年若葉編集長、現在に至る。平成31年俳人協会理事に就任。句集『青葡萄』『山祇』『多摩川』、論文「籾山梓月管見」など。共著『風生俳句365句』『脚註清崎敏郎集』など。朝日カルチャー講師。日本文藝家協会会員。

 かれこれ四十年前になるが、子供たちに田舎を作ってあげたくて、浅間山麓に山小屋を建てて四季折々に滞在した。八月の高原は種々の秋草が咲く。その中でどこへ行っても山萩が咲き盛り、確実に秋の訪れを感じた。山萩は咲き盛ってはいるが、決して派手ではなく風に吹かれている様は、可憐で優美な風情がある。以来、萩がすっかり好きになった。その頃は「若葉」の会員であったので、各主宰の萩の句に注目した。
  馬に敷く褥草にも萩桔梗   富安風生
 毎夏、山中湖畔に滞在された折の一句である。馬小屋を覗くと、敷草の中に萩の花と桔梗が混じっているのを見て、殺風景な中に雅を感じて、情趣ある一句に仕立てている。
  雪国の萩の枝垂れて咲く頃も   清崎敏郎
 富山を訪れた折に詠まれたもの。雪国の美しさは雪景色にあるが、秋は秋で、萩が枝垂れて美事に咲いている風情もまた美しいと、富山の地を称えた土地誉めの一句である。
  子規思へば律を思へり萩の花   鈴木貞雄
 子規庵の庭に咲いている秋草の中に萩の一叢を目にして、ふと、授かった句であろう。萩の花の目立たない美しさに、献身的に子規に尽くした妹律の心の優しさ、美しさがおのずと感じられる作品である。
 萩は、万葉集に既に秋の七草の筆頭にあげられている。その意味でも、日本の秋を代表する花であると言えよう。