俳句の庭/第30回 白鳥の恩返し 小島 健

小島 健
1946年新潟県生まれ。石田波郷門・岸田稚魚、角川春樹に師事。俳人協会副会長、日本文藝家協会会員、「河」同人。NHK学園専任講師。句集に『小島健句集』『爽』『山河健在』他。著書に『大正俳句のまなざし』(NHKラジオ講座テキスト)『大正の花形俳人』『いまさら聞けない俳句の基本Q&A』他。俳人協会新人賞、角川春樹賞等受賞。

 白鳥は天然記念物で、北海道や東北の湖沼などに渡来します。殊に新潟県阿賀野市水原の瓢湖が有名です。まさに、♪ 白鳥の湖。
白鳥の水脈ぐいぐいと山を引く    大串  章  『天風』
白鳥の首やはらかく混み合へり      健  『爽』
 前句、白鳥は大きく力強いですね。山の大景を配したのも、いい構図じゃありませんか。「ぐいぐい」の擬態語に、拍手!
千里飛び来て白鳥の争へる     津田清子   『二人稱』
白鳥の声を汚して餌を欲りぬ       健  『山河健在』
 前句、あ~あ、千里も共に飛んで来たというのに争うなんてネ……。後句、気高い白鳥も生きるためには、もう必死! 
白鳥の集まりて声濁りゆく     寺井谷子  『人寰』
白鳥の武士のこゑわたりけり       健  『爽』
 白鳥は優しい印象ですが、獰猛な目のワルも。その声も低くギャングの脅しのようで~。白鳥の清潔、優雅なイメージを崩すのも、よい意味での「詩の裏切り」。さあ、先入観を破れ!?
白鳥の帰ると決めし声ならむ       健  『蛍光』
 この声はきっと白鳥たちが相談し合って(?)、帰ると決めた声なのでしょうね。こんな健気な白鳥たちの未来に、乾杯!
 今後も私は白鳥を詠み続けたいと思っております。いつか「白鳥の恩返し」もあることを、確信・期待しながら……(笑)。