俳句の庭/第45回 木枯 櫂 未知子

櫂 未知子
1960年北海道生。現在、「群青」共同代表。句集『貴族』にて中新田俳句大賞、『季語の底力』にて俳人協会評論新人賞、句集『カムイ』にて俳人協会賞・小野市詩歌文学賞受賞。

 俳句ではよき地名を使うことで、作品が輝きを増すことがある。また、その反対で、よき句だからこそ、その地名が美しく感じられる場合もある。次に挙げる作品が後者の典型かもしれない。
  木枯や星置といふ駅に降り  片山由美子
 「木枯」(凩)ときくと、吹きすさぶ冷たい風の中で瞬く星々をつい思ってしまう。揺れるように輝く星、人の心細さの頭上で輝く星々。そんな星が配されているように見える地名(駅名)がこの句の「星置」であった。どんな駅なのだろう、どんな街なのだろう。もしかすると満天の星に抱かれた山あいの駅なのかしらと、人々の想像が膨らむだろう。しかし、実は私、この駅を知っている。妹の住む札幌郊外の町の駅名なのだ。
 実際のこの駅は(今でもたぶん)一応は都市にありながら無人駅である。そして、駅の外観も改札もホームも殺風景なことこのうえない。繁華な駅にあるエネルギーも、地方の鄙びた駅の持つ趣もまったくない。一度降りたぐらいでは全く記憶に残らないのである、駅の名の美しさを除けば。しかし、この作品の中で「星置」駅は永遠の命を得た。この句の素敵な響きに憧れ、間違ってあの駅を目指す人がいるのではないかと、私は心配でならない。