今月の俳句

俳句カレンダー鑑賞 6月
亀の子のその渾身の一歩かな 有馬朗人

 作者は昨年12月6日に急逝された。享年90。
 今年の俳句カレンダーが刷り上がり、我々の手元に届いた頃には全くのご健在だったことを思うと、こうして句を眺めるのは切ない。
 朗人は俳人としては無論のこと、物理学者、政治家、教育者など様々な顔を持っていたが、この句に溢れる慈愛の眼差しは、全力で取り組み伸びゆかんとする後進を見守る、まさしく教育者のそれだ。
 この世に生を受け、この先長く続く山あり谷ありの生涯を歩み始めた亀の子に、心からの声援を送っている。亀の子の踏み出す一歩が「渾身」であるのと同様、朗人もまた、頑張れ頑張れと「渾身」の力を込めて応援しているのである。
 第5句集『立志』所収。東大総長を退官した平成5年の作。
(福永 法弘)
亀の子のその渾身の一歩かな

有馬朗人

 社団法人俳人協会 俳句文学館601号より