今月の俳句

俳句カレンダー鑑賞 12月
雪嶺の中まぼろしの雪嶺か 岡田日郎
雪嶺の中まぼろしの雪嶺か

岡田日郎
 昭和43年作。句集『氷輪』中の一句。
 山の俳人として知られた福田蓼汀門で、若くして頭角を現し山岳俳句の神髄に触れてより、日本の山々の四季の移り変りの美を徹底して追求してきた作者。齢87才を迎え、その情熱は衰えを知らない。少年の日からの憧れを胸に抱きつつ山々に対峙し続ける。
 毎年の谷川岳、一の倉沢行も既に50年近い。大岩壁を仰ぎ山気を身の内にとり込むことで岳人たる己を奮い立たせているかのようだ。
 若き日、谷川岳縦走の途中、北の空に真っ白に輝くピラミッド型の雪嶺に心奪われた作者は〈雪嶺の中まぼろしの一雪嶺〉の一句を得た。掲句はこの句を近年推敲の上、訂正したものである。「か」の一字の切れの魔力によって骨格の正しさを備え、写生を突き抜けた句へと新たな命が吹き込まれた。
 雪嶺は時空を超えて聳立し、もはや作者一人のものではなく、岳人の共有する確固たる美、永遠の憧れとして具現化された。(乘田眞紀子)
 社団法人俳人協会 俳句文学館584号より