今日の一句

二月二十四日
草色くさいろ菓子かし桃色ももいろ菓子かしはるきざす梅田愛子

菓子屋を覗くと店頭に草餅、うぐひす餅、さくら餅と並んでいた。どれもなつかしく、春がもうそこまで来ているとうれしくなる。

「梅田愛子集」
自註現代俳句シリーズ一一( 三九)

二月二十三日
らぬ梅林深ばいりんふかてをりぬ藤沢樹村

花の色や枝ぶりなど、梅の木の一つひとつの個性に見入りながら、引き返すことも忘れて、梅林の奥へ入ってしまった。

「藤沢樹村集」
自註現代俳句シリーズ一一( 四一)

二月二十二日
うすらひのかけらひかりぬたけぼうき南うみを

禅道場での作。立てかけた竹箒がきらりと光った。

「南うみを集」
自註現代俳句シリーズ一二( 五)

二月二十一日
如月きさらぎ川音山かわおとやまかげ前澤宏光

養老川は千葉県内三番目の長さの二級河川。清澄山系の山々を源流とし、東京湾に注ぐ。川に沿って小湊鉄道が養老渓谷へと上ってゆく。

「前澤宏光集」
自註現代俳句シリーズ一一( 五一)

二月二十日
がっばこほどそうしゅん水車すいしゃ小屋ごや鷹羽狩行

「楽器函」といっても、バイオリンやトランペッ卜を入れる箱ではない。蓋をあけるとメロディーを奏でるオルゴール。

「鷹羽狩行集」
自註現代俳句シリーズ一( 二)

二月十九日雨水
ゆきけの根小ねこゑくぼおおゑくぼ佐藤俊子

林中の雪解けは木の根っこの周りより始まる。黒い土が生き生きと顔を出す。

「佐藤俊子集」
自註現代俳句シリーズ一一( 四六)

二月十八日
国栖 くず そう笛白栲ふえしろたえふくろより浅井陽子

奈良県吉野町南国栖の浄見原神社で、陰暦一月十四日に行われる神事。崖にへばりつくようにして見た。笛の音が辺りの淵にまで響いた。

「浅井陽子集」
自註現代俳句シリーズ一二( 一一)

二月十七日
三寒さんかん温兆おんきざしぬふでひに及川 貞

やっと少し寒気ゆるむかと出て行くことにした。筆など平素使わないから更めて買いに行く、馬酔木の短冊展のためだったが不出来な短冊で。

「及川 貞集」
自註現代俳句シリーズ二( 七)

二月十六日
冬濤ふゆなみやポケツトのこぶしとし山崎ひさを

二月十五日、春嶺連衆による浦安吟行。少しずつ俳句の輪が拡がって来た。貝殻を敷きつめた道がいやに寒かったことを覚えている。

「山崎ひさを集」
自註現代俳句シリーズ四( 五三)

二月十五日
うすらをたたきりたるやまあめ大串 章

「この句の春意いかにも木曾らしく荒々しい。私の好きな句」と林火先生が評して下さった。まだまだ先生はお元気であった。

「大串 章集」
自註現代俳句シリーズ五( 七)

二月十四日
倉山近ぐらやまちかうぐいすけばなほ名村早智子

角川の「俳句」に掲載された落柿舎の次庵での「玉梓」句会。加藤彦次郎さん、綱頭久子さんほか懐かしい顔ぶれが揃っていた。

「名村早智子集」
自註現代俳句シリーズ一二( 三九)

二月十三日
オリオンの一星いっせいゆるねここい大場美夜子

猫の恋の頃はオリオンが一番よく見え、輝く季節である。三つ星のうち一つが特に炎えているように見えた。

「大場美夜子集」
自註現代俳句シリーズ五( 九)

二月十二日
はるシヨールちやすきゆゑはなやぎぬ佐藤麻績

春のショールは暖かさだけでなく装飾的な部分を求めるようだ。さらりと身につける故に落ちやすくもなるようだ。

「佐藤麻績集」
自註現代俳句シリーズ一二( 二五)

二月十一日
あそびうしめんのいとけなく伊東 肇

同じ徳丸の田遊を写生したもの。牛は最も神聖な存在であるが、その仮面が板に素朴に描かれているのが、かえって古風を感じさせる。

「伊東 肇集」
自註現代俳句シリーズ一一( 三八)

二月十日
春寒はるさむうるしぶとりのうるしべら三田きえ子

輪島「稲忠」にて。漆のつもった漆箆をみて、職人の歳月を感じた。

「三田きえ子集」
自註現代俳句シリーズ七( 一四)

二月九日
けものみち野火のびはしりけり縣 恒則

平戸市川内峠の野焼き。毎年二月第一日曜日に行われる。遠くは対馬、壱岐、五島列島も見える高台。多くの見物者が訪れる。

「縣 恒則集」
自註現代俳句シリーズ一二( 一四)

二月八日
りょう館裏恋かんうらこいのシヤムねこまる殿村莵絲子

三鬼さんの家で句会をした。領事館、シャム猫など三鬼好みの故か大層気に入って貰った。この句を思うと三鬼さんが懐しい。

「殿村莵絲子集」
自註現代俳句シリーズ三( 二二)

二月七日
相模さがみのいつものゆう梅三うめさん岩永佐保

こんな地味な句、と自問しながら湘子先生の指導句会に出してみた。褒められて少し肩の力を抜くことを覚えた。

「岩永佐保集」
自註現代俳句シリーズ一二( 二八)

二月六日
めんりのおお玉風光たまかぜひか間中恵美子

北区王子稲荷社初午には、毎年火伏凧を買う。露店商の面売りの顔は、生き生きと目玉が良く動く。面の目ん玉は素通し、そこに何かを感じた。

「間中恵美子集」
自註現代俳句シリーズ一一( 四三)

二月五日
ひいらぎ葦倉よしくらよしんで安住 敦

それは節分の日だった。作業場で束にした葦は、湖畔に点在する白壁の倉庫に積み込まれた。この辺ではアシと言わずヨシと呼んでいる。

「安住 敦集」
自註現代俳句シリーズ二( 一)

二月四日立春
りっしゅんやかさりこそりとのきすずめ多田薙石

二階の軒に毎年雀が巣をつくる。立春には未だ巣造りは始まらないが、そのあたりに雀が集っているのである。

「多田薙石集」
自註現代俳句シリーズ六( 一五)

二月三日
まめくやつまのうしろのくらがりに小林康治

貯炭場管理小屋にも節分がめぐってくる。そこばくの年の豆は、うからの屯するあたりにも撒かれた。

「小林康治集」
自註現代俳句シリーズ二( 一五)

二月二日
探梅たんばいみちろう郎杉ろうすぎ田口三千代子

埼玉県の方まで足を運んだ時のこと、山裾のこの辺りでは梅の見頃には早すぎたようだ。道の両側にある杉の大木を見上げた所で引き返した。

「田口三千代子集」
自註現代俳句シリーズ一一( 三七)

二月一日
海道かいどう立塞たちふさがりしふゆ百合山羽公

広重の絵の昔からつづいた海道筋の狭い道幅の面影がそこここにある。空風を鳴らして永く立塞がっていた冬が漸く場所をあけた。

「百合山羽公集」
自註現代俳句シリーズ一( 二五)

一月三十一日
燈台とうだいのまたたきのかんすばる藤木俱子

脇野沢の民宿に泊った。窓の下はすぐ海で、百合鷗が浮寝をしていた。星が美しかった。「林」三周年記念作品で入賞した三十句の中の一句。

「藤木俱子集」
自註現代俳句シリーズ八( 二一)

一月三十日
ゆきしまくほくのくらさ森田かずや

元気だった小畑耕一路さんが計画してくれた北陸行。<み仏の息かとも雪光り降る>帰路猛吹雪で列車が立ち往生。ままよと車内で句会を始める。

「森田かずや集」
自註現代俳句シリーズ八( 二〇)

一月二十九日
てん杉初燈すぎはつとうみょうともされて藤本安騎生

天狗が棲みついていたと言われる杉は、村人の信仰の対象である。天狗さんや狸に化かされた話しが聞けなくなった昨今は、不幸ではなかろうか。

「藤本安騎生集」
自註現代俳句シリーズ八( 一六)

一月二十八日
おにがわらつのきはやかにかん波来ぱく小野恵美子

鬼の角にもいろいろな形がある。丸みを帯びたもの、長く尖っているもの......。

「小野恵美子集」
自註現代俳句シリーズ八( 一九)

一月二十七日
新鋭しんえいのごとしもちあまた秋元不死男

この時代、ふだんはお餅をたべませんので、これはお正月でしょう。火に乗った餅のふくれ具合はまことに油断のならぬものです。よそ見したすきを見て、急にふくれて大きく割れます。じっと我慢していて一気に破裂するさまは、まさに新鋭の集中力です。

 
「秋元不死男集」 脚註名句シリーズ一( 一)

一月二十六日
そでのこぼるるやはつかい藤田直子

「未来図」の新年句会は男女共に、和服姿が多かった。どなたかの香が新年ならではの雰囲気を醸し出していた。歳時記に採用された句。

「藤田直子集」
自註現代俳句シリーズ一二( 三四)