俳句の庭/第34回 春の嵐 福永法弘

福永法弘
昭和三十年、山口県生まれ。 松本澄江、有馬朗人に師事。句集『福』、エッセイ集『俳句らぶ』、『北海道俳句の旅』、共著『大歳時記』、『女性俳句の世界』や小説など著書多数。小説『白頭山から来た手紙』で第3回四谷ラウンド文学賞受賞。「天為」選者・同人会長、「石童庵」庵主、俳人協会理事、俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会理事。ホテルオークラ京都代表取締役社長。

ここ2年ばかり『源氏物語』にはまっている。「知音」主宰の西村和子さんから、彼女が帯文を書いた林望『源氏物語』を頂いたのをきっかけに、他の訳者のものも読み漁った。円地文子、田辺聖子、瀬戸内寂聴、谷崎潤一郎。そして漫画では長谷川法世、大和和紀『あさきゆめみし』。テレビでは橋田寿賀子脚本もの、映画は長谷川和夫主演の古い名画や、天海祐希が光源氏を演じた異色作も。更には、夏山かほるのミステリー『源氏物語五十五帖』や佐藤晃子の解説本『源氏物語解剖図鑑』まで、幅広く手を出した。
京都に住んで7年、学生時代を含めると通算11年になるが、物語の中に耳慣れた地名がたくさん出てきて興が乗るし、何より、同じ原典を各人がどう表現しているかの読み比べが楽しい。
風が重要な役回りをする章がいくつかあるが、春のこの時期としては、「須磨」「明石」の中で吹き荒れた春の嵐が凄まじい。須磨で上巳の祓いをしていた源氏を突然の暴風雨が襲い、仮住まいを吹き飛ばし、火災まで起こして叩きのめすのである。
上巳の祓いは雛祭りに形を変えて後の世に伝わるが、物語に最も近いと思われる形で今も行われているのが、下賀茂神社の流し雛だ。毎年の楽しみにしているのだが、コロナ禍で、去年に引き続き今年も中止となった。実に残念。
   老いらくのはるばる流し雛に逢ふ  大野林火
蛇足だが、大野林火の忌日と私の誕生日が一緒である。林火は享年78歳。私は今66歳。老いらくのどのあたりで無常の風が吹くのだろうか。