俳句の庭/第41回 両国の風 片山由美子

片山由美子
1952年、千葉県生まれ。鷹羽狩行に師事。「狩」副主宰を経て、2019年「香雨」創刊、主宰。「毎日俳壇」選者。公益社団法人俳人協会常務理事。俳句研究賞、俳人協会評論賞、俳人協会賞などを受賞。句集『飛英』ほか6冊。評論集、対談集、エッセイ集、入門書など著書多数。

 9月といえば大相撲秋場所である。先場所は新型コロナウイルス感染が広がり、部屋の全員が途中休場せざるを得なくなるところが出てきたり、予想外のことが起きた。私は2年前の7月に観客を入れた場所が再開して以来、東京場所は毎回観戦している。
 何十年も大相撲を観てきて面白いと思うのは、昨今の四股名である。この世界にもキラキラネームのような四股名が登場しているのだ。もう慣れてしまったが、最初は「天空海」を何と読むのか想像がつかず。「あくあ」なのだが、これは出身地の大洗にある水族館「アクアワールド」に因んでいるのだという。「天(あまね)」は大胆な四股名だと思ったが、実は本名が井上天。「朝阪神」はいかにも大阪出身らしいが、「朝阪神虎吉」というので笑ってしまった。「爽(さわやか)」はそのままずばり。「雅」「櫻」もいるけれど、呼び出しはちょっと苦労しそうだし、強くなれるかどうか心配に…。
 昔の四股名といえば、「山」「海」「風」などがつくのが定番で、「時津風」や「追手風」など伝統ある年寄名跡は誰でも知っているだろう。しかしながら、現役力士となると、幕内・十両の関取にはいない。幕下にも見当たらず、三段目にやっと「天風(あまかぜ)」(幕内経験者)、序二段に「風武(ふうぶ)」がいる程度。「風」はそこまで忘れられてしまっているのかと驚くばかりである。
 相撲ファンとしては、四股名で楽しむ大相撲というのを提唱し、まだ馴染みの薄い力士たちの活躍を応援したい。
  川風をさそふ幟や九月場所           由美子