俳句の庭/第29回 鳥占い 片山由美子

片山由美子
昭和二十七年千葉県生まれ。同五十四年、鷹羽狩行に師事し作句を始める。平成二年、第五回俳句研究賞、同十九年、『俳句を読むということ』により俳人協会評論賞、同二十五年、句集『香雨』により俳人協会賞を受賞。句集六冊のほか、評論集、対談集、エッセイ集、入門書など著書多数。「狩」終刊を承けて「香雨」を創刊主宰。公益社団法人俳人協会常務理事。

 イランへ旅をしたときのことである。美しい街イスファハンのイマーム広場を散策していると、不意に一人の少年が近づいてきた。鳥籠を提げ、親指に小鳥を止まらせている。ペルシャ語で何かを言っているのでよく見ると、その鳥が籠に入ったかと思うと小さな紙を咥えて出てきた。鳥占いを商売にしている少年だったのである。硬貨を渡すと、鳥は改めて私のために紙を咥えてきた。おみくじというところで、何を書いてあるのか分からないが、二十年近く経ったいまもバッグの中にある。
 その鳥はカナリアに似た黄色い鳥だったが、日本でもヤマガラのようにいろいろな芸をする鳥がいる。おみくじ芸もその一つで、複雑な装置まで作られていて驚く。鳥居をくぐって賽銭箱に賽銭を入れ、鈴を鳴らして社の扉を開け、おみくじを咥えてくるという何段階もの動作をするようにできているのである。
 私の知人が飼っていたヤマガラは釣瓶芸を仕込まれていた。専用の籠があって、籠の上部から横に張り出したところに釣瓶が下がっている。その釣瓶の中へ餌の虫を入れてやると嘴で紐をたぐって引き上げ、中の餌を食べるというわけである。その仕草が何とも愛らしい。
 野鳥にそういうことをさせるのはどうかという意見もあるだろうが、昔の人はそんな鳥との付き合い方を楽しみ、細工物の技も磨いた。それに比べるとイランの鳥占いなど素朴なものだが、少年の姿を懐かしく思い出す。