俳句の庭/第31回 虎落笛 能村研三

能村研三
1949年、千葉県市川市生まれ。1976年より福永耕二に師事。 「沖」入会ののち、同人を経て2013年から主宰を継承。国際俳句交流協会副会長、千葉県俳句作家協会会長。「朝日新聞千葉版俳壇」選者。「読売新聞」地方版選者。「北國新聞」俳句選者。1997年、俳人協会新人賞を受賞。句集に『鷹の木』ほか7冊。他にエッセイ集。公益社団法人俳人協会理事長。

 今年の干支の寅年にちなんで「虎」の名がつく虎落笛についてお話したい。「虎落笛(もがりぶえ)」は冬の季語で、冬の激しい風が柵などに当たって「ひゅうひゅう」と笛のような音をたてることを指す。
 中国から伝わった「虎落」という文字は、本来粗い割り竹を組んだ垣根や塀のことで、冬の激しい風が竹垣や柵などに吹きつけて発する笛のような音を言う。
 『虎落』というのは、虎の侵入を防ぐ柵でもあって、虎が乗り越えられない柵、虎が乗り越えようとしても落ちてしまう柵ということである。
  この齢で何を恐るゝ虎落笛 及川貞
という句がある。「何を恐るゝ」とは言ってはいるが、ひゅーひゅーと鳴る音は誰もが不安を搔き立てられる。
 私が初めて俳句を作って、句会に持っていった句は、
  虎落笛ひときは高く夜のジャズ
の句。福永耕二先生指導の若手の会に初めて参加した時の句で、私の処女作。正月、幕張の焼鳥屋さんを会場にして行われた句会で、私も歳時記に首引っ引き、あえて難しい季語に挑戦したようで、今から思うとかなり最初から力が入りすぎていて、無鉄砲なことをしたものだと思っている。しかし、この句は先生から誉められて、先生の郷里鹿児島から発行されている米田静二の「ざぼん」にも紹介されたのがうれしかった。
 この句は私の第一句集『騎士』の巻頭を飾る句である。