俳句の庭/第18回 トッチート・トトチート 西村和子

西村和子
昭和23年、横浜に生まれる。昭和41年、「慶大俳旬」に入会、清崎敏郎に師事
平成8年、行方克巳と「知音」創刊、代表。句集『夏帽子』(俳人協会新人賞)『かりそめならず』『心音』(俳人協会賞)『鎮魂』『季題別西村和子句集』『椅子ひとつ』『わが桜』
著書『虚子の京都』(俳人協会評論賞)『添削で俳句入門』『季語で読む源氏物語』『俳句のすすめ―若き母たちへ―』『気がつけぱ俳句』『子どもを詠う』『季語で読む枕草子』『季語で読む徒然草』。共著『名句鑑賞読本』茜の巻・藍の巻、『秀句散策』。
俳人協会理事

 ふだん聞き慣れている鳥の声が、外国に行くと違って聞こえる。言語は異なっても囀りは万国共通だと思うのだが、心なし新鮮に聞こえるのだ。
  語尾つよくうたふ高麗鶯は  『心音』
 中国の鶯はひときわ麗わしく響いた。まさに朗々と春を歌っているようだった。「ケキョ」までくっきり響かせるのだ。
  王宮の窓にひらめき岩燕  『鎮魂』
 マドリードの燕たちは実に華やかだった。いつまでも暮れぬ窓に写りこんで、飛翔を楽しんでいた。
 スイスの山道ではさまざまな小鳥たちが語りかけてきたが、中でも一段と長々しく囀るのがいて、注意深く聴いてみると最後が英語に聞こえる。ドイツ語圏をトレッキングしながら、その聞き做しに興じたものだった。
  ウイズユーと語尾くり返し囀れる  『鎮魂』
 パリでは雀たちも流暢なフランス語を語っていた。人間を怖がらないことにも驚いた。
  我が窓に来鳴く小鳥も仏蘭西語  『わが桜』
 鳴き声の聞き做しは楽しいが、鳥の名はほとんど知らない。「囀り」や「小鳥来る」「寒禽」と詠むことが多い。しかし一つだけその名を知りたい鳥がいる。草津の夏の終わりに落葉松の梢で愛らしい声を聞かせてくれるのだが、姿を見たことはない。「トッチート・トトチート」と鳴く鳥を、どなたかご存知ないだろうか。