俳句の庭/第38回 茅花流し 加古宗也

加古宗也
昭和20年愛知県生まれ。昭和45年富田うしほ、潮児父子に師事。平成2年より「若竹」主宰。俳人協会理事。日本文芸家協会会員。村上鬼城顕彰会常任理事。句集『舟水事』『八ツ面山』『花の雨』『雲雀野』『茅花流し』『現代俳句文庫加古宗也句集』著書『定年からの俳句入門』ほか。
 私の住む「三河」で、一級河川は豊川と矢作川くらいだ。矢作川は長野県、岐阜県の山間地を源流に、豊田・岡崎・安城を通って西尾に入る。そして西尾で三河湾にそそいでいる。矢作川は他の大河と同じく江戸時代以前は出水が多く、徳川家康が江戸幕府を開府すると間もなく矢作川を二手に分ける大工事を行っている。その一本が矢作川で、もう一本の元の流れを現在は矢作古川と呼んでいる。

 矢作川はかなり上流から白茅の群生が見られ、矢作川下流地域では、夏になると白布を敷き詰めたように一斉に白茅が穂を出す。南風に吹かれてきらきらと輝き揺れる様は美しく、「茅花流し」という季語にもなっている。

 私は茅花流しに吹かれながらのんびりと過すのが好きで、たびたび矢作土手に腰を下ろし、ときには仰向けになる。

 また、仲間との吟行会で静岡県の由比に「さくらえび吟行」をしたことがある。富士川の河川敷にブルーシートを敷いて、ダンプで運んできたさくらえびを干すのだ。さくらえびは数時間のうちに見事なピンク色になって干し上がる。この頃の富士川土手の茅花流しがまた美しい。上流に目をやると夏の青富士が富士川をまたぐように聳えたっている。その光景は息をのむような美しさだ。