俳句の庭/第1回 白梅 小澤 實

小澤 實
昭和31年、長野県生れ。平成12年「澤」創刊、主宰。平成10年、句集『立像』で第21回俳人協会新人賞。平成18年、句集『瞬間』で第57回讀賣文学賞詩歌俳句賞、平成19年、評論「俳句のはじまる場所」で第22回俳人協会評論賞。現在、俳人協会常務理事、讀賣新聞・東京新聞俳壇選者。
 小学生の高学年の頃、木曽谷に住んでいた。漆器の盛んな平沢という町だった。狭い谷の間に中央西線と国道十九号線とが通り、さらに奈良井川が流れて、その間に家がぎっしりと建て込んでいた。その中の一戸建ての貸家がわが家だった。表は県道に面していて、裏木戸を出ると奈良井川だった。裏庭に梅の木が植えられていて、春ごとに白い花をつけた。
 信濃は全体的に寒い地だが、その中でも木曽はとりわけ寒さの厳しい地である。雪も多く降って、小学校の冬の体育の授業はスキーであった。
 父が小学校の教員をしていたため、小学校の低学年の時は、伊那谷の辰野で暮らしていた。そこでは冬の体育はスケートだった。スケートはすこしはすべることができるようになっていたが、木曽に引っ越してきたため、あらたにスキーに取り組まなければならなくなった。級友はみなスキーがうまく、始めたばかりのぼくが近づけるすべもなかった。よく風邪をひいて、すぐ熱が出た。熱が出ると、スキーを休めた。そうそう風邪ばかりひくこともできないので、どうやって、スキーの季節をやりすごすことができたのか。今となっては覚えていない。
 結局、スケートもスキーも苦手なものとして、大人になった。そんなぼくにとって、早春はもっとも好きな季節だった。裏庭の白梅が咲くのが切実に待たれた。