俳句の庭/第25回 ほととぎす 西山 睦

西山 睦
昭和21年生宮城県多賀城市生まれ。昭和53年「駒草」に入会。阿部みどり女に師事。平成15年 「駒草」主宰を蓬田紀枝子より継承。平成16年より河北俳壇選者。俳人協会理事。日本文藝家協会会員。句集『埋火』『火珠』『春火桶』など。父は二代目「駒草」主宰八木澤高原。
 ある時、道端で我が家の上空に双眼鏡を向けている人がいた。余りにも長い間見ているので、夫に声を掛けてもらった。戻ってきた夫が言うには、家の上空が鷹の飛ぶコースになっているので、鷹を見に来たという。多摩市にある米軍ゴルフ場に巣を作っていて、餌を食べに神奈川の生田緑地に来るらしい。そういえば郭公が渡ることもあった。我が家の前は深い谷になっていて、森を成している。森には梟の一家を養えるほど鼠がおり、狸一家はもとより貂がヘッドライトの中を駆け抜ける。都会に近く、小さくて豊かな森と言える。
 鶯はよく鳴く。鶯の鳴き声が生活に馴染んだ頃、「ケキョ」の語尾に「キョキョキョ」という声が混じることがある。夏を知らせる「ほととぎす」だ。ああ、鶯の巣にやって来たと思う。声を聞くのはだいたい5月31日から6月3日の間。やがて昼夜ひっきりなしに鳴くようになると、私の眠れない夜が続く。夜明けにはやや掠れた声になることもあり、必死の托卵のためかと思うと哀れでもある。ふらふらの睡眠不足のままカルチャーに出かけると、板書の誤記がふえる。森の空は狭いので姿を見ることはない。眠れないならその対策をとるべきなのだが、七月ともなると私の方が慣れて眠れるようになる。明け方の声に窓を開けると星を二つ三つ見ることもあり、悪くないと思う。やがて「キョキョキョ・ケキョ」と「ほととぎす」と鶯が混じった鳴き声が聞こえてくる。友人によると画眉鳥が鳴き真似をしているとのこと。画眉鳥もなかなかの技を持っている。「ほととぎす」は秋には南へ渡って行ってしまう。