俳句の庭/第47回 夜の萬福寺 福永法弘

福永法弘
昭和三十年、山口県生まれ。 松本澄江、有馬朗人に師事。句集『福』、エッセイ集『俳句らぶ』、『北海道俳句の旅』、共著『大歳時記』、『女性俳句の世界』や小説など著書多数。小説『白頭山から来た手紙』で第3回四谷ラウンド文学賞受賞。「天為」選者・同人会長、「石童庵」庵主、俳人協会理事、俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会理事。ホテルオークラ京都代表取締役社長。

 京都宇治の萬福寺は、江戸時代初期、日本からの招請に応じて中国福建省から渡海してきた隠元禅師が創建した黄檗宗の寺。そこで、日中国交回復50年と、隠元禅師350年遠諱に当たる昨年の10月から今年の1月末まで、ランタンフェスティバルが開かれた。
 とある伝手で2500円もするチケットが無料で手に入ったので、例年にも増して寒いこの冬の夜、思いきり着膨れて出かけてみた。
 広い境内の20か所にランタンが数百個も置かれ、それぞれに日中友好、隠元禅師渡来、麒麟瑞獣、桃源郷などとストーリー性が持たせてあり、しかも、ランタンの制作と設置を中国人技師十数人が直接手掛けただけあって、中国趣味、中国情緒がたっぷり醸し出されていた。
 また、天王殿や大雄寶殿、法堂などもすべて見られたので、昼とは違う夜の禅寺の荘厳な雰囲気にも浸ることが出来た。腹を両手で開いて中のお釈迦様を見せている羅怙羅(らごら)尊者像は夜見ると一段と異様だ。
 折しもその日は冬の満月。
山の端から昇ってくる冴え冴えとした月が境内を照らし、地上のランタンは夜空に向けて光を放ち、天と地の光の競演は幻想的だった。
   月冴ゆる羅怙羅尊者の腹の内   法弘