俳句の庭/第43回 はしだのりひこ 今井 聖

今井 聖
一九五〇年新潟に生まれ鳥取で育つ。加藤楸邨に師事。俳誌『街』主宰。著書に小説『ライク・ア・ローリングストーンー俳句少年漂流記』(岩波書店)、岩波ジュニア新書『部活で俳句』他に句集三冊。評論集『言葉となればもう古しー加藤楸邨論』(朔出版)で第32回俳人協会評論賞受賞。俳人協会理事。日本シナリオ作家協会会員。

 はしだのりひこを覚えてますか。
 ザ・フォーク・クルセダースの三人の一人で、背の高い加藤和彦と北山修に挟まれて一番小柄。ギターとボーカルを担当してた。やがて彼は独立して「はしだのりひことシューベルツ」を作り、「風」の大ヒットを生む。「人は誰もただ一人旅に出て」で始まる歌詞は世を席捲した。1969年に高校を出た僕が京都の大学を受験したときにこの歌が流行っていた。どこの大学を受けたかは恥ずかしくて言えない。とにかく五六校は受けたろうか。全部落ちた。このとき「五分五分だけど落ちたらすみません」なんて健気に言ってた僕を不憫に思った父は「京都ホテル」を取ってくれた。自分はいつも二級酒を呑み三等車に乗ってたくせに。米子から山陰線で出てきた田舎者にはたまげるような立派なホテルだった。部屋に入りベッド脇のラジオのスイッチを捻るとこの歌が流れた。本当のことを言うと最初から受かる見込みなんてなかった。僕の法螺吹きはこのころから際立っていたのだった。
 フォークル解散後も「はしだのりひこ」は何曲かヒットを出したがいつしか消えてしまった。数年前に「フォークル一度切りの再結成コンサート」をテレビで観たけどはしだは出てなかった。その後、加藤和彦は自殺し、はしだは病死。今は医師になった北山修だけが残った。「風」はその後、音楽の教科書にも載るような歌になったらしい。だけど教科書に載ってるんだったらもうカラオケで歌いたくないな。