俳句の庭/第4回 クローバー 今井 聖

今井 聖
1950年新潟に生まれ鳥取で育つ。1970年加藤楸邨に師事。現在、俳誌『街』主宰。著書に小説『ライク・ア・ローリングストーン 俳句少年漂流記』(岩波書店)、岩波ジュニア新書『部活で俳句』他句集三冊。評論集一冊。
 中、高校生時代は鳥取県米子市の県営の家畜試験場の中にある職員住宅で暮らした。鶏二千羽、豚三百頭と一緒の生活である。豚や鶏の放牧場があり、鶏は夜には樹の上で眠った。放牧場にはクローバーが植えられており、肉の厚い葉は人間からみても実に美味しそうだった。クローバーは牧草の一種、もともとは家畜の飼料だった。スコットランドの牧場で羊が食べ尽くしたあと牧童が棒で球を打つ遊びを始めたのがゴルフの発祥という説がある。試験場に隣接するゴルフ場の運営側と懇意であったこともあり、職員である父たちはゴルフ場に実に珍奇な提案をした。ゴルフ場の敷地の一部に試験的に牧草を植えてみてはどうか。ゴルフ場は通常芝を植えるがこれにはかなりの経費がかかる。もともと牧童が牧場で始めたのがゴルフであるから芝の代わりに牧草で代用できないか。植えた牧草が伸びたころシーズンオフに羊を放つ。羊が草を食べる。羊が太る。ゴルフ場は芝を刈る手間が省ける。人件費も浮く。いいことづくめである。ゴルフ場もこの案に乗ったらしい。父たちは芝に近い種類の牧草を取り寄せてゴルフ場の敷地の一部に実験的に牧草を植えた。しかし父たちは肝腎なところが抜けていた。伸びた牧草を羊たちがきれいに食べ尽くしたところまでは目論見通りだったがそのあとには糞が点々と転がっていてゴルフどころではなかったのである。今でもクローバーを見ると羊の糞を思い出す。