俳句の庭/第23回 放生会の鳥 福永法弘

福永法弘
昭和三十年、山口県生まれ。 松本澄江、有馬朗人に師事。句集『福』、エッセイ集『俳句らぶ』、『北海道俳句の旅』、共著『大歳時記』、『女性俳句の世界』や小説など著書多数。小説『白頭山から来た手紙』で第3回四谷ラウンド文学賞受賞。「天為」選者・同人会長、「石童庵」庵主、俳人協会理事、俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会理事。京都ホテルオークラ代表取締役社長。

京都の白川沿いに住み始めて6年半になる。日々目にする白川だが、季節ごとにその趣を転じ、飽きることがない。浅くやや早い流れが紡ぎだすせせらぎの音、異なる形のたくさんの石橋、川沿いの桜や柳は折々に彩りや葉擦れの音を変え、癒しの時をもたらしてくれる。
その白川での行事に放生会がある。放生会は元々、岩清水八幡の九月十五日の例祭で、男山の前を流れる放生川に魚を放って殺生を戒めたもので、秋の季語とされる。白川では放生会やそれをなぞらえた行事が3つある。
1は、浄土宗知恩院による放生会で、古門前橋の袂で毎年10月15日に行われている。盛装した多数の僧侶の手により魚が川に放たれる。厳かな風情がある。
2は、天台宗比叡山により祇園辰巳橋で毎年6月初めに行われる放生会で、こちらは祇園の舞妓さんが魚を放つことから、観光客が大勢取り囲み、華やかである。
3は、地区の諸団体共催で毎年8月初めに行われる「白川子どもまつり」だ。白川を堰止めて2万匹もの金魚を数回に分けて放ち、子どもらが競ってそれを掬う。子どもらや若い親たちの歓声が賑やかである。
どれも毎年見ているが、その行事を心待ちにしているのは、観光客や俳人ばかりではない。白川を根城とする青鷺、小鷺、真鴨などもまた、虎視眈々と放たれた魚を狙っているのである。
放生会少し離れて鷺と鴨   法弘