俳句の庭/第93回 川の畔に 望月 周

望月 周
昭和40年、東京・三鷹生れ。平成11年、「百鳥」入会・大串章に師事。平成14年、第9回百鳥賞受賞。平成22年、第56回角川俳句賞受賞。平成27年、第1句集『白月』により第38回俳人協会新人賞受賞。 現在、「百鳥」編集長。公益社団法人俳人協会理事。日本文藝家協会会員。 句集『白月』のほか、共著に『俳コレ』、『新東京吟行案内』、『俳句の事典』、合同句集『塔 第十一集』

 玉川上水、神田川。いずれも、人生の一時期をその畔で過ごした小河川です。
 小学校3年生まで東京・三鷹に住んでいました。市の北部を流れる玉川上水に入って遊んだ記憶があります。岸の斜面を下ることに興じたり、小さくて地味な色の川蝦を捕まえて大きさを競ったりしました。普段は踝までほどの水嵩しかありませんが、上水の三鷹駅近傍は、かの太宰治が入水自殺した場所として有名です。大人たちは上水に入らないように厳しく戒めたものです。
 三鷹駅の南側の上水沿いは人通りも多く、大人の目につきやすかったのですが、“度胸試し”に遊んでいました。よりによって駅前交番の目と鼻の先の斜面が手ごろで、そこから細い流れに下っていったのを覚えています。
 三鷹から杉並に転校し、中学時代には神田川沿いによく登下校しました。家からは少し遠回りの道筋なのですが、川沿い歩きは気持ちのよいものでした。護岸がコンクリートで固められた、さして広くもない流れです。それでも、夕映えの空を群れて旋回する蝙蝠や都内では珍しい大雪の日の小さな橋の欄干に積もった雪の嵩など、いまも心に残っています。はじめて抱いた恋心を持て余しながら川沿いを下校したことも。
 雄大な自然とは無縁で、清流とも言い難く、人々の生活圏の只中を流れる川ですが、とても愛着があります。
  神田川祭の中をながれけり  久保田万太郎

※万太郎句 『草の丈』所収