俳句カレンダー鑑賞  平成25年11月

俳句カレンダー鑑賞 11月
一つ火や満堂の闇まだ醒めず 鈴木貞雄

 一山の灯を全て消し、新たな浄火を鑽り出す闇と光の儀式が「一つ火」。御滅灯・滅灯会ともいい時宗三大法会のひとつ。
 同時詠〈鑽り出す一つ火闇にあたらしき〉と対をなすが、法会の「光」ではなく「闇」から「一つ火」を詠む点で秀逸。
 「毎年除夜詣のようにして通うようになった」という氏ならではの衒いのない端正な詠。 阿弥陀仏の慈悲に満ちた「光」の堂内。「闇」と「光」が較差する法会の余韻を過不足なき措辞で表現。闇深ければ真如が輝き、光明るければ無明の影濃く、氏の詩心は「いまだ醒めざる」その「闇」に揺蕩う。
 今さら芭蕉の言説を引くまでもないが、掲句をもって氏は上人一遍と結縁、法会「一つ火」を冬季題として見事に定位。その栄を担うに相応しき格を備えた一句といえる。(大島等閑)
一つ火や満堂の闇まだ醒めず

鈴木貞雄

公益社団法人俳人協会 俳句文学館511号より