俳句カレンダー鑑賞  平成25年3月

俳句カレンダー鑑賞 3月
戀歌のごとく降りゐる春の雪 茨木和生

 雪雲の切れ間から差し込む日差しは、もはや冬のものではない。光り輝きながら降り来る春の雪に、鳥の声も聞こえ始めた。その時、古今集の光孝天皇御歌〈君がため春の野にいでて若菜つむわが衣手に雪はふりつつ〉を作者は独りごちていたのかも知れない。
 「戀」の字を用いることで光の糸が千々に乱れ、縺れながら落ちてくる春の雪のさまも見える。  掲句は第4句集『丹生』所収。右城暮石から「運河」主宰を継承したばかりの平成3年作である。
 この頃、東吉野村の村長や村人たちの志の高さに打たれた作者は、この地の「ふるさと創生事業」に参加。原石鼎旧居の移築など多くの句碑や歌碑の建立に関わってきた。
 春の雪は、罔象女神(みつはのめのかみ)に守られた、水の美しく豊かな地を慕う作者のこころの結晶なのである。(山内 節子)
戀歌のごとく降りゐる春の雪

茨木和生

 公益社団法人俳人協会 俳句文学館503号より