俳句カレンダー鑑賞  平成25年5月

俳句カレンダー鑑賞 5月
咲ききつてふるへてゐたり白牡丹 今瀬剛一

 牡丹は豪華で華やかな花である。特に白牡丹はあでやかで、得も言われぬ気品と陰翳が漂う。卵形の蕾が徐々に解け、やがてすべての花びらが少し身を反らし、蕊を囲むように立ち上がる。
 作者は、あるかなきかの風に花びらをふるわせている牡丹を眼の前にして、そのふるえの奥に、咲き切ってしまったことに対する牡丹の不安な気持ちを感じとったのである。咲いた後は、一片ずつ花びらを散らしてゆく自然の摂理が続く。
 第8句集『新船』に収められている句。作者はそのあとがきの中で「対象をよく見ること、写生を考えることを第一に試みたが写生は難しい、生易しいものではない」と述べている。
 なお同句集に〈純白を重ねたる白牡丹かな〉が収録されている。
 両句とも写生を第一に、そしてそこに自分の見方を添え、白牡丹の有り様を描いている。(岡崎 桂子)
咲ききつてふるへてゐたり白牡丹

今瀬剛一

 公益社団法人俳人協会 俳句文学館505号より