俳句カレンダー鑑賞  平成25年9月

俳句カレンダー鑑賞 9月
ある年の子規忌の雨に虚子が立つ 岸本尚毅
ある年の子規忌の雨に虚子が立つ

岸本尚毅
 自解によると、俳句誌に載った写真から触発されて詠んだ句で「子規と虚子が一句の中に収まった、めでたい句である」とある。
 これはかつて〈子規逝くや十七日の月明に〉を、虚子が子規へ語りかけるように詠んでいる、と読み解いた作者の、虚子への挨拶句なのかもしれない。相当な思い入れがあるはずだが、言葉は敢えてさりげなく、素っ気なく置かれている。それがかえって散文では言い尽くせないことを、句のまわりに漂わせているようだ。私はこの写真を見ていないが、雨に打たれ、着物の裾を濡らしながら立っている虚子は、なにやら教訓めいた風情でもなく、後世の私らに何かを伝えようとしている風でもなく、ただひたすらにこちらを見ている。そんなふうに見えてくるところが、いかにも虚子らしい。(下坂速穂)
公益社団法人俳人協会 俳句文学館509号より