俳句カレンダー鑑賞 平成25年9月
- 俳句カレンダー鑑賞 9月
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いもうとのごとくよりそふ虫時雨
中岡毅雄平成21年刊『啓示』所収。平成19年の作。
中岡氏は、平成15年の師走に病を患い手術を受けた。今も術後の精神的な不調を抱えている。
そのような日々にあって掲句は、凪のように訪れた一刻に生まれたものであろうか。幼いころ、虫すだくなかを妹と共に歩いたことのある人々の記憶を呼び覚ましてやまないだろう。氏本来の澄んだ眼差しによる詩情あふれる句である。
この句から淡い恋情を感じるのは、「武蔵野の草は諸向(もろむ)きかもかくも君がまにまに我(あ)は寄りにしを」などの万葉歌へ思いが向かうからだろうか。
「よりそふ」の措辞には、ぴたりと傍に寄って歩く意味のほかに、頼りとし夫婦になる意味が込められていよう。
郷愁のかなたから浮かび上がる懐かしい句姿のうちに、結婚生活のはじまりがつましく告げられているのである。(大石香代子)公益社団法人俳人協会 俳句文学館509号より