俳句カレンダー鑑賞 平成25年8月
- 俳句カレンダー鑑賞 8月
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ひぐらしの鳴く方へ椅子向けてあり
辻田克巳初学の頃、幸運にも師の伊根の山荘での鍛練会に浴したことがあった。
句もできぬまま悶悶とゴロ寝。眠られぬままに朝ひぐらしの声を聞き、この句を思い浮かべた。 しかしその当時には、まだこの句の深い意味を読みとることができなかった。実はこの句には先行句がある。
昭和52年、師である不死男を失った深い悲しみや不安を詠んだ<ひぐらしの高き木ばかり不死男亡し>という句だ。その後昭和55年にこの句が生まれた。
年を重ねた今では、この句が師を亡くしながらも俳句の道を刻苦勉励しようとする決意や覚悟だったことがよく分かる。
爾来、幾星霜を閲しただろうか。現在師は82歳になられた。しかしこの句は古びることなく今も息づいていて、読者にはあらたに声高な夕ひぐらしが聞こえてくるのではないだろうか。
人生はまさに終盤。今なお俳句に真摯に立ち向かおうとする師の姿が目に浮かんできて、ただただ敬服するばかりだ。(小松 生長)
公益社団法人俳人協会 俳句文学館508号より