俳句カレンダー鑑賞 平成25年7月
- 俳句カレンダー鑑賞 7月
-
「岩手県北の海近き地に中野白瀧あり」の前書きがある。白瀧神社から谷への急な径を10分ほど下った所にある、水量豊かで豪快なしぶきを上げる2段の滝である。この地域のパワースポットとしても有名。
第4句集『竹窗』所収のこの句が作られたのは平成4年。大きな拠り所であった師の小林康治を亡くし、「たかんな」創刊を決めた年でもあった。方々を吟行し、迸るように俳句を生み出していた時期である。
滝の命は水であるという。そしてもとより水は我々人間の生命線でもある。滝という圧倒的な水を前にしたとき、人は言葉を失う。
「きりきりと」という印象的なオノマトペに、滝の激しさや水の冷たさが窺われる。滝壺近くの水際で思わず手に掬いとった水、その清冽さに滝の命を見、また、生かされている自らを思ったのである。
一句の余情は深い。(吉田千嘉子)きりきりと瀧の命の水掬ふ
藤木倶子
公益社団法人俳人協会 俳句文学館507号より