俳句カレンダー鑑賞 平成25年4月
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花に贅落花に贅を尽くしたる 後藤比奈夫 「諷詠写生会」は結社「諷詠」の代表的な吟行会として、昭和32年に発足、現在も続いている。 昭和51年4月の会場は阪急岡本駅近くの神戸女子薬科大学であった。絶好の行楽日和の下、キャンパスの中央に姿のよい池があり、周囲を桜に囲まれていた。花はまさに満開。辺りは見事な落花に埋められていた。
出席者は皆この景色に魅入られて作句に取り組んだのだが、師比奈夫のこの一句には一同深く感じ入ったものであった。
「贅を尽す」という措辞を満開の桜と散り敷いた落花の両者に対して使われ、人生これ以上の贅沢はないと観ぜられたのであろう。大学に対しての存問としても、これ以上はない讃辞であった。
この頃、夜半先生はご体調が芳しくなく、吟行句会はほとんど出席されなかった。当日の句会も後刻選となったが、もちろん掲出句は夜半特選であった。
この年の8月29日、夜半先生は長逝され、比奈夫先生が「諷詠」の主宰を継承された。(吉岡 翠生)公益社団法人俳人協会 俳句文学館504号より