俳句カレンダー鑑賞  平成25年3月

俳句カレンダー鑑賞 3月
春水のほとりに麩屋のありにけり 鈴木 しげを

 ゆっくりと時間の流れるような懐かしい風景。人口過多な大都会では、こういう景は見られないだろう。
 手許の、ちょっとした町の「散策マップ」を展げてみた。そこは城跡のある北国街道の陸路で、本陣・問屋・伝馬所などが設けられていたところ。今でも町中に豊かな水の流れる川があり、商家の家並みも昔の情景を残している。
 良質な地下水で酒・醤油・酢・豆腐・生麩などを生業とする商家は、現在も健在。田楽や丁稚羊羹、猪のチャーシュー入りというラーメン屋まである。琴の糸など和楽器糸を作っている工場も。  「しげを俳句」の本質は、透明な詩境を詠んで鑑賞者をほのぼのとした気分にさせてくれるところにある。同時作ではないが、〈遣水の寸ゆきわたる菖蒲かな〉も、確かな視座で情感が行き届いている。(蓮見 勝朗)
春水のほとりに麩屋のありにけり

鈴木 しげを

 公益社団法人俳人協会 俳句文学館503号より