俳句カレンダー鑑賞 平成25年10月
- 俳句カレンダー鑑賞 10月
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松茸、と聞くだけで嬉しくなるのに、その椀がつつつとまのあたりに滑り寄る。障子の外はまだ明るく、室内は一瞬の静寂に満ちて。
松茸の椀の思いがけぬ動きを、作者は間髪を入れずに、景とわれとの響き合う呼吸として把握。その平明さを貫くリズムによって、まさに椀の中の松茸の香りが匂い立つようである。
この句は、師が主宰誌「門」を創刊した昭和62年の12月号に発表されたもの。俳人協会の『自註現代俳句シリーズ』での註記には「椀の糸底内のほんの少しの空気が、汁の熱さで膨張して椀が動くのだ」との説明がある。第三句集『春の門』に収録。
それにしても、26年前の結社誌誕生の年に発表された句が載録されたカレンダー。そして4月の師の突然の逝去。不思議な俳縁である。合掌。(佐藤 左門)松茸の椀のつつつと動き出す
鈴木鷹夫
公益社団法人俳人協会 俳句文学館510号より