俳句カレンダー鑑賞 平成25年6月
- 俳句カレンダー鑑賞 6月
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赤い襷に手甲脚絆。朗らかな太鼓の音に合わせて田植えが始まった。辺りの水面には、初夏の日差しが眩しく降り注ぐ。 暫くして、一人の早乙女が手元の苗を補うために身を起こした。するとそこには、亡き母の面影が...。
驚いた作者は、その顔をもう一度よく見ようとするのだが、再び腰を折った早乙女の顔は、弱まり初めた日差しの作る優しい翳りの中に隠されてしまった。
嗚呼、と呟きながら視線を上げた作者の目に飛び込んできたのは、薄茜に染まった故郷の名峰、白山だった。
眼前の景に取材しながら、不変と見えつつ日々変幻する天然と、日々変幻するかに見えて永遠の人事の交感を詠った句。それは拡大解釈? いやいや「天つ」と「鴇色」という二つの措辞を吟味すれば、この解釈はむしろ最小限。(大前貴之)田植女や天つ白山鴇色に
田島和生
公益社団法人俳人協会 俳句文学館506号より