俳句カレンダー鑑賞 平成31年10月
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かつて浜坂砂丘と呼ばれた鳥取砂丘の西側には高浜虚子の句碑〈秋風や浜坂砂丘少し行く〉がある。そこから海の方へ進むと有島武郎の歌碑があり、傍らには立派な一里松がある。作者はそこで新松子に目を留め、砂防林を抜けて砂丘をゆっくりと散策したのだろう。 10月に入ると晴天でも波は2メートルを越すことがある。その日も高波で風も強く、砂丘の窪みには風が渦巻いていたに違いない。掲句は〈荒海や〉と日本海の厳しさを描出。そして中七から一気に絞り込んで新松子をクローズアップ。この遠近法の活用により新松子の瑞々しさが印象的で趣のある作品となっている。またこの時期、鰯雲と風紋とが相俟って雄大な景色を見せてくれる時がある。日々変貌する砂丘の一面が見事に捉えられている。(石山ヨシエ) 荒海や風の砂丘の新松子
白岩敏秀
社団法人俳人協会 俳句文学館582号より