俳句カレンダー鑑賞  平成31年2月

俳句カレンダー鑑賞 2月
塔の影水に動かぬ余寒かな 安立公彦

安立公彦が奈良の旅で得た作品。猿沢の池に映る興福寺の五重塔が思い浮かぶ。「塔」、「影」、「水」の三層の情景は余寒の中にある。また「余寒かな」と癇性の響きを発する措辞がこの情景を微動だにさせない。
 「影」も「余寒」もいわば〝虚〟を表すことばである。そして、「うごかぬ」によって時間も空間も一瞬にして余寒の中に封じ込められたのだ。この緊迫した〝虚〟の世界に公彦も風景の一つとなって隠然と屹立しているのが見えてくる。
 公彦は自身の俳句感をこう記す。「俳句は一瞬を言い止める詩型だ。言い止めた表現は〝動き〟を背景としている。そこに作者自身の姿勢が浮かぶのである」
 この作品は、公彦の研ぎ澄まされた詩心が瞬間を捉え、永遠にしたものである。(鈴木 直充)
塔の影水に動かぬ余寒かな

安立公彦

 社団法人俳人協会 俳句文学館574号より