俳句カレンダー鑑賞  平成31年9月

俳句カレンダー鑑賞 9月
もうたれも居らぬ座敷の秋扇 山川幸子

 誰も居ない座敷に置かれた秋扇というシンプルな叙景句。作者の思いは「もうたれも居らぬ」にあろう。嘆きに近いこの言葉は「たれ」かが身近な人物であり、この座敷に馴染んでいたことが容易に想像される。しかもこの座敷から出て、もう戻ることがないであろうことが「もう」と言わせたのであろう。秋扇の置かれた座敷はぽっかりできた心の空洞でもある。
 この「もう」には作者の万感の思いがこもっていて読者にその寂しさが惻々と伝わってくる。
 作者は俳誌「同人」の第8代主宰。青木月斗が1920年(大正9年)に創刊した同人」は今も多くの会員を擁しており、主宰は投句の全てに目を通している。来年は創刊100周年を迎えるが、家族の絆を大切にしながら、結社の運営に力を尽くしている。(飯野 幸雄)
もうたれも居らぬ座敷の秋扇

山川幸子

 社団法人俳人協会 俳句文学館581号より