俳句カレンダー鑑賞 平成31年4月
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しあはせに目のあけられず花吹雪
鷹羽狩行第十句集『十友』所収。平成2年発表で、「多摩川三句」という前書きのある作品の一句。川沿いの満開の桜並木がちょうど一斉に散り時を迎えているのだろう。遠目でも美しい情景だが、そのただなかで花吹雪のなか目を閉じて立ち尽くし、降り注ぐ花びらを浴びている作者。まるで天から大いなる祝福を受けているかのような幸福感に浸っているのだ。目を閉じることによって自然との一体感、陶酔感といったものがさらに増す。目をあけたら現実に戻ってこの幸福感が失せてしまうのを惜しむこころ。
作者60歳を目前にした頃の作品であるが、50歳代、ラジオにテレビに講演に活躍。折から俳句ブームとなり、作者の俳業は多忙を極める。このような手放しの幸せを詠み得た背景には、それらを超人的にこなしつつ走り続けてこられた充実感もあったことだろう。
実はその翌年、過労とストレスと思われる症状で一時床に臥すことになったのだが。(西宮 舞)社団法人俳人協会 俳句文学館576号より