俳句カレンダー鑑賞  平成31年7月

俳句カレンダー鑑賞 7月
どこを開いても夕焼色の本 今瀬剛一

 窓辺あるいは机の上に置かれた読みさしの本。気がつくと、夕焼に染まった空や木々、屋根と同じように、この本も夕焼の中にある。作者は本の中の夕焼がどこまで続いているのかと、ページを繰っていく。そして新しいページを開くたび、夕焼が濃くっていくように思えたのである。
 昭和50年作者39歳の作品。第2句集『約束』に収められている。
 また、同句集には〈夕焼がおしよせてくる喉仏〉がある。夕焼の中の喉仏を意識し、それに焦点をあてた実景に近い作品である。
 飯島晴子は『約束』巻末の解説「虚と実のはざまの中に」で、「外部に夕焼があるとは書いていない。(中略)本の紙の一枚一枚がみな夕焼色である。夕焼がそっくり本になったような本が、だんだんと思われてくる」と評している。(岡崎 桂子)
どこを開いても夕焼色の本

今瀬剛一

 社団法人俳人協会 俳句文学館579号より