俳句カレンダー鑑賞  平成31年9月

俳句カレンダー鑑賞 9月
文弱の指に蟷螂鎌もたげ 宮城章

 自己を客観的に捉えた内省的視点の深い一句である。「文弱」は人生の中心に俳句文芸を据えた作者が自分自身を揶揄したものであろう。同時に文事に耽っている他者をも包含している。
 「指に蟷螂」で対象を一気に自己に引き寄せ、「鎌もたげ」で、文弱の自己が社会や人生に於ける理不尽なことに対しては敢然と立ち向かう勇気と強さがあることを示しているのだ。「文弱」と「鎌」の二律背反的措辞がこの一句を深いものにしていて読者の強い共感を得ることに成功している。
 作者は自身を文弱と表現しているが、実際の宮城氏は俳人協会沖縄県支部長として、県俳壇をリードしている力強い人である。声量も豊かで、発言内容も常に明快である。  癌にも打ち勝ち、益々意欲的。掲句は俳人の心意気を見事に言いとめている。(澤 聖紫)
文弱の指に蟷螂鎌もたげ

宮城章

 社団法人俳人協会 俳句文学館581号より