俳句カレンダー鑑賞  平成31年5月

俳句カレンダー鑑賞 5月
長崎も丸山にゐて豆御飯 有馬朗人

、京の島原と並ぶ日本三大花街である。唯一、丸山の遊女は、唐人屋敷やオランダ屋敷への出入りが許されていた。
 作者は、世界的に著名な物理学者であり、海外詠俳人としても名高く、外国との交流の歴史を刻む長崎への思いは深い。
 東京大学総長として長崎大学学長土山秀夫氏と共に丸山に来て豆御飯を食し、香り立つ初夏の彩りに、丸山という艶めいた街は、苦楽を共にした青春を清々しく醸し出す。
 作者は隠れキリシタンの史実ある地を度々訪ね、「人間がこんなに哀しいのに主よ海があまりに碧いのです」(遠藤周作『沈黙』)の碑文を胸に刻む。
 信念をもって生き抜いた長崎の人々の歴史の明暗に触れ、華やいだ丸山の遊女の悲哀にも心を寄せて豆御飯の鮮やかさは、一層目に染みたのである。(渋田かおる)
長崎も丸山にゐて豆御飯

有馬朗人

 社団法人俳人協会 俳句文学館577号より