俳句カレンダー鑑賞  平成31年7月

俳句カレンダー鑑賞 7月
流すもの流せざるもの髪洗ふ 德田千鶴子

 第一句集『花の翼』所収。この句集に通奏低音のように流れているのは、亡き夫への思いである。〈幸せにすると言つたのに曼珠沙華〉〈光にも哀しみのいろ黄落期〉といった哀調の強い初期のものから、〈栗〓いて指先乾くひとりの夜〉といった感情を抑えた後期のものまで並んでいて、「時が哀しみを癒す」という古今東西の真理を改めて感じさせてくれる。
 掲句は夫を亡くして7、8年経っての作。しかし句集を最初から読んできた者には「髪洗ふ」という孤独な営みについ涙を感じてしまう。忘却にすべてをゆだねるとしても、この記憶だけは忘れずに抱いてゆきたい、という作者のひたむきな想いが伝わってくるのである。
 いずれにしても「人生には流すものと流せないものがある。自分にとってそれは何か」と考えさせるところに、この句の真価がありそうだ。(夏生 一暁)
流すもの流せざるもの髪洗ふ

德田千鶴子

 社団法人俳人協会 俳句文学館579号より