俳句カレンダー鑑賞 平成31年5月
- 俳句カレンダー鑑賞 5月
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「朴の花」は、山桜や桐の花とともに作者の好む木の花である。この句の朴も東吉野の深山の大樹に違いない。惜しむらくは見事な花に被さる初夏の雲。その気持ちに応えるかのように、雲が解かれて来たのだ。
そのあとの美しい青空。朴の花がより白く輝きを放って見える。高樹の花はなべて青空の下でこそ見映えするもの。
加えて、刻々と変化する「雲」と存在感ある大輪の「朴の花」、動と静の巧まざる対比。その上「雲解れ来たる」という措辞が、時間の経過や視座をも感じさせる。
この句は、平成21年作、第10句集『山椒魚』所収。
翌22年作〈高空の雲日に消えて朴の花〉という続きのような句が、第11句集『薬喰』にみえる。
毎年初夏になれば、同じ所で、同じ朴の花を仰ぐ至福のひととき。
朴の花は、自然の深奥を詠み続けてきた俳人への天恵なのだ。(田邉 富子)雲解れ来たる青空朴の花
茨木和生
社団法人俳人協会 俳句文学館577号より