俳句カレンダー鑑賞  平成30年11月

俳句カレンダー鑑賞 11月
いつ見ても山茶花散つてをりにけり 黛執

 初冬の穏やかな昼下り、少しひんやりとした空気はどこまでも透明である。その静けさの中、風も無いのにはらはらと散る山茶花。気のせいか見る度に散っている、あたかも時を刻むかのように。作者にはそう見えてならない。
 言葉の省略を尽くし、技巧は敢えて排除したのだと思われる。「をりにけり」の、仮名書きの五音に散りしきる山茶花の光と影が鮮やかである。この手法は、見えない処に意匠を凝らす匠の技に似ている。
 作者が80歳後半に入った頃の作品。自ら起こした結社「春野」を高齢のため、弟子の私(奥名)に譲った後だった筈である。
 そうした背景もあって私は、これは到達された境地なのではと思う。
 そこに尊いものを感じると同時に、言い様のない寂しさに包まれる。
(奥名 春江)
いつ見ても山茶花散つてをりにけり

黛執

 社団法人俳人協会 俳句文学館571号より