俳句カレンダー鑑賞  平成30年1月

俳句カレンダー鑑賞 1月
海神の爐の沸々と初日の出 有馬朗人
海神の爐の沸々と初日の出

有馬朗人
 掲句は、著者第九句集『流轉』冒頭句である。生々流転は、朗人氏の基本的自然観であり、人生観でもあると言い切っておられるので、その信念の程を句集名にされたと思われる。その句集の冒頭句とあれば、ご自身の中でも代表句に類する一句であることは窺える。因みに2句目が〈太箸に遠つ淡海の光かな〉の句であることから、遠州灘の初日を詠まれたものと理解される。
 初日は、山の稜線及び海の水平線から上がるものがあり、どちらも神聖な感慨に甲乙つけ難い。遠州灘の旦暮を常にする私には、水平線からの初日により深く感銘する。
 確かに水平線に顔を出した初日は、ぐらぐら煮え滾っているようである。しかし、「海神の爐の沸々と」とは、凡人の思い及ばない措辞であり、非凡なる感性が常識の殻を破り詩に昇華させた。
 読者は、海神が爐を燃やすという発想を受け入れ、初日を拝すべく、はるかなる水平線に思いを致すはずである。(和久田隆子)
 社団法人俳人協会 俳句文学館561号より