俳句カレンダー鑑賞  平成30年10月

俳句カレンダー鑑賞 10月
秋風の畳となりてゐたりけり 松尾隆信

 元々、秋風は素風と呼ばれるように色なき風である。丹沢連峰より吹き来る素風は魔法のように湘南平を錦繍の世界へと変えてしまう。
 広重の東海道五十三次の平塚には、飛脚とその背景にお椀のような小山が描かれている。現在は湘南平と名付けられているその山頂は、かつては千畳敷と呼ばれていた。
 掲句の「畳」とは正にこの千畳敷のことである。181メートルの丘陵の山頂にある27ヘクタールの平らな公園の様相は、まさしく一枚の巨大な畳のように感じる。
 これは「畳」を山頂の岩の千畳敷として鑑賞したものだが、寺院の千畳敷の大広間、いや家庭の六畳間、八畳間といったところを吹き渡る風に、秋を深く感じていると解釈することも出来る。
 さらには一枚一枚の畳の秋風から、天地を吹きわたる全秋風を連想することも出来よう。(荒井 寿一)
秋風の畳となりてゐたりけり

松尾隆信

 社団法人俳人協会 俳句文学館570号より