俳句カレンダー鑑賞  平成30年7月

俳句カレンダー鑑賞 7月
応へねばならぬ扇を使ひけり 山尾玉藻

 第56回俳人協会賞受賞句集『人の香』所収。
 あおいで涼をとるための扇は、落語では箸にもなるし、踊などでは心の機微を巧みに表現する小道具としても使われる。
 掲句では、公私どちらの立場か推し量るのは難しいが、やはり主宰としての判断を迫られている場面を考えるのが妥当であろう。切羽詰まっている程ではないが、その返答によっては先々に何らかの影響を及ぼしかねない重大な状況のようだ。
 そんな最中、表情はあくまでも穏やかに平静を保ち、内心の動揺や逡巡を相手に気取られぬよう小ぶりの扇をゆったりと遣う姿が見えてくる。返答するまでの様々な葛藤を見事に隠しきった扇である。
 そのはんなりとした仕草の扇の主は、大阪船場にルーツを持つ生粋の浪速女である。(大山 文子)
応へねばならぬ扇を使ひけり

山尾玉藻

 社団法人俳人協会 俳句文学館567号より