俳句カレンダー鑑賞  平成30年8月

俳句カレンダー鑑賞 8月
象の檻長き不在や天の川 久保田哲子

 パンダ他の希少動物が注目を集めている昨今ですが、象もまた〝動物園の顔〟として根強い人気があり来園者に親しまれています。
 感受性豊かな作者の哀惜の一句です。象の姿が消えて久しい「檻」を描いています。
 季語「天の川」が象の死を暗示し、「長き不在」は、天の川の悠久のイメージと照応しています。星々に流れる永遠の時間と対置されるほど、象に親しんでいた人々からすれば十分に長い不在なのです。哀しみのニュアンスが季語によって強められていると感じます。取合せの妙と言えます。
 掲句はまた、象のことに止まらず、大きな喪失感を伴う様々なものの不在に連想を誘います。作品のこうした奥行や広がりも、雄大なスケール感をもつ季語を斡旋した効果でしょう。 (望月  周)
象の檻長き不在や天の川

久保田哲子

 社団法人俳人協会 俳句文学館568号より