俳句カレンダー鑑賞  令和4年9月

俳句カレンダー鑑賞 9月
山の幸しるす一筆月を待つ 加藤耕子

 伊賀上野の芭蕉祭では研究論文、俳句、連句等の特選受賞者と選者が、前夜の「月見の宴」に招待されるのが恒例となっている。祝いの膳は芭蕉が生家で知己に振舞った「月見の献立」を元に、地元の主婦の方々が忠実に再現して供される。
 掲句は、長年英語俳句部門の選者として招かれた作者が、会場に展示された芭蕉直筆のその懐紙を前にしたときのもの。
 八月十五夜(元禄七年)芋の煮しめと酒に始まり、のっぺい汁、煮物、肴、菓子と会席料理のお品書きさながらの構成となっている。品名としては、芋の他しめじ、松茸、きくらげ、くるみと多くの山の幸が記されている。希有のもてなしのもと、芭蕉の月の客となったような作者の至福が伝わってくる。
 私も参加した会では宴の終わる頃、城の上に月が姿を現した。中止の続いたこの祝宴の再開を、本年は期待したいところである。
(清水 京子)
山の幸しるす一筆月を待つ

加藤耕子

 社団法人俳人協会 俳句文学館616号より