俳句カレンダー鑑賞 令和4年3月
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たがやして耕して子を抱いて寝る
小野寿子掲句は令和元年の俳人協会東北大会・秋田大会の大会賞受賞句である。
「たがやして耕して」のリフレインがいっときの田畑の耕しだけではなく、日々の暮しの中の「耕し」をも物語っているように思う。作者の子育ての頃の体験なのか、あるいは自身の母の姿を詠んだもので子は作者自身なのかも知れない。
掲句の動詞の多さに予測出来ない子の動きや母親の休む暇とてない働きづめの日々の暮しぶりが伝わって来る。
一日の作業に疲れ果てた母が子に乳をふふませたまま、子より先に寝落ちてゆく様子が哀しくもあり又、ほほえましくもある。読み手にとっては一日の終りの安堵感につつまれしっかりと子を抱いて寝る母の姿のしあわせな情景にほっとさせられる。
昔はどこにでも居た強く優しい母親像に、ある種の懐かしさとともに母子の強靱な絆をも感じる。小野寿子俳句の根底にあるやさしさや寛容さが色濃く滲む一句である。
(木村あさ子)社団法人俳人協会 俳句文学館610号より