俳句カレンダー鑑賞  令和4年2月

俳句カレンダー鑑賞 2月
長崎に降り立つすでに絵踏めき 伊藤伊那男

 警官に呼び止められただけでなんとなくびくびくしてしまうように、長崎に降り立っただけで怯えてしまうというところに、正直者(!)の心根が出ているようで可笑しい。作者はクリスチャンでもない。
 掲句は結社誌「銀漢」の2011年5月号に主宰8句のうちの1句として掲載されている。〆切は遅くても3月末だから、作句時期は東日本大震災の直後と考えられる。
 震災直後の混乱のなか、作者は関西の知人に誘われて娘や孫らとともに京都に向かったそうだ。その疚しさのようなものが、影のようにこの句は反映しているのかもしれない。
 そう読む必要はないし、そう読むことは句意を曲げることになるだろうが、体験と俳句の表現の間には、そんなことがあっても不思議ではないと思ったりもする。
(戸矢 一斗)
長崎に降り立つすでに絵踏めき

伊藤伊那男

 社団法人俳人協会 俳句文学館609号より