俳句カレンダー鑑賞  令和4年6月

俳句カレンダー鑑賞 6月
立葵沖見むと咲きのぼりけり 岸原清行

 師は俳誌「青嶺」の理念を〝自然と人との心豊かな交響〟と掲げられた。その理念を実践するに相応しい地にお住まいである。世界遺産の沖ノ島を遙かに玄界灘に続く響灘に面し、万葉集に詠われた山を背にした海・山の幸に恵まれた自然豊かな里である。
 掲句は沖と立葵の面と線や色彩の対照が鮮やかで立葵を擬人化し、〝沖を見たい〟と断定された。
 好奇心や探求心が旺盛で前向きな師の姿勢と重なると理解していた。
 だが、俳人協会の自註現代俳句シリーズ『岸原清行集』に少年時代を過ごした中国への郷愁が誘い出したと記されている。〈リュック背に灼くる大地を引揚げし〉も玄界灘の沖から帰還された句である。
 戦争により生活が一変した体験から生まれた句だった。師の平和への願いは深い。だが今も戦火に苦しむ人が大勢いる。
(石松 昌子)
立葵沖見むと咲きのぼりけり

岸原清行

 社団法人俳人協会 俳句文学館613号より