俳句カレンダー鑑賞  令和4年7月

俳句カレンダー鑑賞 7月
虹の中雨飛び水晶岳聳ゆ 岡田日郎
虹の中雨飛び水晶岳聳ゆ

岡田日郎
 水晶岳は北アルプスの中央部最奥の稜線上に聳える岩峰。山岳俳句の第一人者である作者は深田久弥著の『百名山』を昭和64年に完登し、この山頂も踏んでいる。
 自疏句集『山』によると野口五郎小屋の朝はあいにくの小雨模様。雨具を付け小屋を後にする。
 登路途中、ふと振り向くと背後に虹が掛かっていた。更に、なんとその中に秀麗水晶岳が聳え立っている。
 山の気象は千変万化。
作句のため山を登り続けた作者は四季を通し幾度となく虹を目にし、幾度となくそれを潜ってみたいと願ったことだろう。
 追いかけても追いつくことの永遠に出来ない、自然現象を越えた神秘的なもの。が、今、恰もわが身が虹を潜り、愛する山と一体化するかの感情に陥った作者の喜びが読者に感動を与える。
 直視・直観・直叙に基づき大景を捉えたロマン漂う作。(第7句集『赤日』所収)
(千家 妙子)
 社団法人俳人協会 俳句文学館614号より